弁護士インタビュー 竹内千賀子

法曹を志したきっかけについて教えてください。
母が四人姉妹の長女だったこともあり、「いちばんお姉さん」の立場で小さいいとこたちといつも遊んでいました。子どもが好きで、小さい頃は保育士になりたいと思っていました。
しかし、高校生で進路を考えた時に、文系の自分には法学部が一番魅力的だと思って、大学は法学部に進学しました。
自分の性格的にも、曲がったことが嫌いで、困った人を助けたいという気持ちが強い方だったので弁護士を目指しました。今から思うと理屈っぽいところも弁護士に向いていました。
大学4年生の時に司法試験を受験しましたが、残念ながら択一試験で落ちました。 父(昭和的な人でした)が受験浪人を許してくれそうもなかったので、就職活動の結果、一宮市役所に就職し、働きながら司法試験の勉強をしました。
弁護士としての主な業務内容と変遷を教えてください。
私の業務の3つの柱は、①子どもの権利、②倒産再生、③行政連携、です。
① 子どもの権利関係は、弁護士になる前からやりたいと思っていたので、東京弁護士会(東弁)の子どもの権利委員会に所属して活動しました。当時は弁護士と子どもが作るお芝居「もがれた翼」に出演していました。東弁で行っていた「いじめ予防出張授業」を参考として、愛知県弁護士会でプロジェクトチーム長をさせていただき、愛知でのいじめ予防授業実施に尽力しました。
② 最初にお世話になった就職先は東京の奧野総合法律事務所で、倒産案件が多く、いつも身近にありました。当会に移籍してからも、倒産や再生の案件に多く携わっています。弁護士会の倒産実務委員会にも所属し、事業再生研修の講師をすることもあります。
③ また、一宮市役所職員だった経歴を活かして、行政支援関連の業務も行っています。「自治体支援弁護士プロジェクトチーム」についても立上げから関与しています。
こうして振り返ると、様々な経験をしたことが今の業務に繋がっているので、人生に無駄なことは一つもなかったなと思います。
特に、スクールロイヤーは、子どもの権利と行政の境目といえる職務で、私がまさに注力してきた業務が掛け合わさった分野であることも、偶然ではないように思います。
倒産再生分野においてどのような活動を行っているのか、その業務のやりがいについて教えて下さい。
個人の破産や再生のお手伝いをすることもありますが、私の業務の多くは、法人の再生や破産に関わる業務です。
普通の人は「倒産」と聞くと、ネガティブな印象を抱くことが多いと思います。しかし、破産法で定められた破産という手続きは、社会経済や環境の変化のあおりを受けて事業や生活が立ち行かなくなってしまった会社や個人を助けるための制度です。

つまり破産という制度は、自分の努力だけでは立ち直れなくなってしまった会社や個人の債権債務を整理し、次の一歩を踏み出すための制度なのです。この業務は、前を向いて頑張ろうとする人の次の一歩を支え、背中を押せるというやりがいがあります。
破産でもそうなのですから、再生業務にいたっては、やりがいしかありません。事業再生には様々な手法があり、会社を分割して事業価値の高い事業をスポンサーに支援してもらう方法や、企業の磨き上げによって、あるいは金融機関の支援を得て自力で会社を立て直すという方法もあります。
スクールロイヤーとしての活動について教えてください。
私の取組みは、もともと「スクールロイヤー」という名称ではなく、学校を巡回して相談を受ける「学校巡回相談」でした。
傷ついた子どもやその保護者からの相談を受ける中で、学校の対応に問題を感じ、教員の「子どもの人権」への意識向上が必要だと考えるに至りました。他方で、教員も日々悩みながら子供に寄り添おうと奮闘しておられましたが、すぐに相談できる弁護士はいませんでした。
そこで、私は、みんなが弁護士に気軽に相談できる「学校巡回相談」を提案しました。地元の子どもたちが安心し て通える学校づくりに関わりたいと思いました。
そして、人のご縁も幸いしたのか、平成25年に一宮市で「学校巡回相談」が実現しました。
令和元年からは、愛知県弁護士会でもスクールロイヤー派遣が始まり、多くの弁護士が子どもの最善の利益を目指し、助言を行っています。私は現在、県のスクールロイヤーとしても活動しています。

学校からの相談内容は、いじめ、学校事故、PTA問題、先生のメンタルヘルスなど多岐にわたります。
例えば、いじめ事案では、まずは学校が自力解決を試みるため、弁護士への相談は対応困難案件が多いです。
しかし、対応困難に陥ったきっかけが、子どもの話をきちんと聞けていないことであったり、教員の心無い言葉であったり、配慮不足であったりすることもあるので、しっかりと子どもの意見を聞き、その子の最善の利益を考えて対応を進めていくよう助言します。
学校の人権意識向上や、次回の予防策を講じることも重要な役割です。
スクールロイヤーとして活動するやりがいと、その一方で、どのようなことを心がけていらっしゃるか、お聞かせください。
教員の人権意識の底上げが、学校トラブルの予防につながる、という点だと思います。
いじめが起きる教室では、教員が上下関係を作ったり、子ども同士を過剰に競わせたり、笑いをとるために誰かをいじったりすることが散見されます。それにストレスを感じると、その子どもがそのストレスのはけ口として誰かにいじめを行う、という構図になることがあります。
その反対に、教員が子どもを尊重して接している教室では、子ども同士も互いに尊重し合うようになり、いじめは起きにくくなります。
私としては、教員の相談に応じる中で、無意識に行っている差別や不適切な対応を指摘し、あるいは、子どもの意見を尊重する教室運営を示唆することで、教員の人権意識を底上げすることを心掛けています。
長い目で見て、教室でのいじめを予防したり、子どもが自分らしくいられる場所を提供したりできる、ということに一番のやりがいを感じます。
弁護士としての人生におけるターニングポイントについて教えてください。
令和5年度に愛知県弁護士会の副会長と日弁連の理事として会務に尽くしたことです。これまで自分の家族や仕事、事務所、あるいはその周辺のことしか考えていなかったのですが、副会長を経験して、弁護士の業界全体のことも見える(考える)ようになり、視野が広がったと感じます。

ストレス解消法を教えてください。
推し(俳優田中圭)が出演するドラマを観たり、舞台を観に行ったりすることです。同じ舞台を何度も観に行っても、何度も楽しむことができます。
これから挑戦したい法律業務や、新たに取り組みたい分野について教えてください。

自分の子どもが小さい時に、熱を出したりすると、仕事と育児の両立が難しかったので、この地域で病児保育事業をやってみたいと考えています。
これから弁護士を目指す方々へメッセージをお願いします。
弁護士の資格は、無限の可能性がある資格です。小さくまとまらずに、やりたいことを伸び伸びとやって欲しいです。どんな経験も無駄にならない稀有な職業です。
弁護士の力が必要だと感じる分野があったら、誰もやっていなくてもそこにトライしてもらいたいなと思います。
あと、警鐘としては、楽にお金を稼げることはないので、甘い話には乗らないように気をつけて欲しいです。

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